腰痛 解剖学

Joint By Joint Theoryにおいて腰部のスタビリティが低下するために腰痛になるというのは本当?

Joint By Joint Theory(ジョイント・バイ・セオリー)という理論はご存知でしょうか?

Joint By Joint Theoryについては、以前こんな記事を書いていますので、参考にしてください。

Joint By Joint Theory(ジョイント・バイ・セオリー)関節の機能について

JBJの考えでは、腰部は安定を担っているため、腰部のスタビリティが低下するために腰痛になると言われてきました。

Joint By Joint Theoryというのは、非常にわかりやすい考え方で、臨床にも落とし込みやすく、患者さんに説明もしやすく、とても使い勝手がいい考え方です。

私自身も、実際によく使っていました。

ところが、痛みについてリサーチすると、そんな単純な話ではないことがわかります。

単純に腰部のスタビリティ低下で腰痛になるわけではないということですね。

もう少し詳しく解説します。

腰部のスタビリティが低下するために腰痛になるわけではない

参考

https://www.jospt.org/doi/abs/10.2519/jospt.2019.8144?fbclid=IwAR29ZCDha2ytzPjjWTNQEZBUzSxFklb02164xVVld5Y0TU1ceDRxanz_9o8

腰痛の方は、脊椎が不安定であると診断されることがよくあります。

脊椎は、直接観察できない多くの要素を持つ複雑なシステムです。

脊椎は非常に複雑で、機能の研究と脊椎の不安定性の直接的な評価を難しくしています。

脊椎に関して、良く知られていることは、体幹筋の活性化が脊椎の安定性の要求を満たすように調整されているという事です。

これは、中枢神経系が脊椎の安定性に対して、綿密に監視していることです。

脊椎は、誤った運動制御が神経分節の不安定性を生み出すのを防ぐ神経結合と機械的結合によって保護されているという事です。

ただし、この神経結合と機械結合は、負傷した脊椎では大きな問題になる可能性があります。

つまり、機械的、神経の制御の観点から伝統的に考えられている腰部の不安定性は、痛みの感作に関係するプロセス、およびおそらく医原性の背部痛の研究に潜在的に適用される可能性があります。

この解説は、腰痛の複雑さを捉えるために学際的な知識を統合する、より現代的で幅広い安定性の見解を主張しています。

となっています。

簡単に書くと、腰痛に至るまでにはこの神経的、機械的 の関係があり、単に腰部のスタビリティ低下で腰痛になるわけではないという事です。

痛みについて

痛みの分類は以下に分けられます。

  1. 侵害受容性(炎症性を含む)
  2. 神経系
  3. 侵害可塑性

1 侵害受容性

侵害受容性の痛みの定義は、末梢の組織の侵害受容器から起こる有害な侵襲のことで、組織のダメージや炎症により、末梢の侵害受容器から伝達されます。

具体的には、スポーツ・トレーニングなどの過活動、怪我などの炎症性の痛みなどに関しては、侵害受容性の痛みのカテゴリーになります。

侵害受容性の痛みは、侵害受容器からの伝達により痛みを感じるため、スポーツの試合中などで、テンションが上がっている場合など身体の状態によっては痛みとして認識されない場合もあります。

痛みは中枢神経系で統合されて認識されるため、ストレスや不安、緊張などの感情によっても侵害受容機に影響を与える可能性もあります。

スポーツやトレーニングなどにより、慢性的に激しい運動や活動が体の部位にかかると、負担が大きい部位が炎症を起こす事もあります。

また炎症が起きていなくても、侵害受容器の伝達を変化させ痛みを生じることもあります。

炎症が起きていなくても痛みが出る場合があることから、スポーツ・トレーニングなどの過活動による痛みと認識される場合もあります。

また生活習慣により、組織の炎症からの回復が遅れると痛みが長引く場合があることも、侵害受容性の痛みの特徴です。

2 神経性

この2つが挙げられます。

  1. 神経性の痛みとは、痛みが特定の部分の神経の範囲に関与する
  2. 外傷や疾病などによる体性感覚神経による

神経性の痛みは、〇〇神経痛と言われるものですね。

有名なものですと、顔面神経痛、三叉神経痛、肋間神経痛、坐骨神経痛などでしょうか。

体性感覚神経について解説します。

内受容(Interoception)」というものがあります。

「内受容」と言われても、あまり効き馴染みが無いのではないでしょうか?

内受容の神経レセプターは皮膚組織の下にあります。

内受容の働きとして

  • 筋肉
  • 皮膚
  • 関節
  • 内臓

の生理学的な感覚

つまり

  • 温かい
  • 冷たい
  • 痛い
  • くすぐったい
  • 痒い
  • 触られた感覚
  • 空腹

などの内臓の感覚を感知します。

これらの刺激は、脳にある大脳皮質の島皮質に送られます。

体の刺激を感知するルートは2種類あります。

  1. 脳の一次体性感覚野へ部分へ伝達されるルート
  2. 内受容から島皮質に送られるルート

ちなみに固有感覚受容器も、筋肉や関節に存在し、関節の角度を感じたり、運動の実行、筋肉への伝わり方、姿勢や運動の制御に関係しています。

実は、内受容は感覚神経だけではなくホメオスタシスにも重要な役割を担っています。

日常生活の動作や、スポーツ・トレーニングにおいての統合性も担っています。

そんな内受容からの伝達を受け取るのは自由神経終末というレセプターで、筋膜など、身体の様々な場所に存在しています。

実は筋肉などの筋骨格系には感覚神経が少ししかなく、動作の伝達、感知を担うのは、自由神経終末がメインです。

自由神経終末がは非常に多く存在し、体を動かすキーマンになります。

自由神経終末は、温度や化学物質などの変化、その他さまざまな刺激を感知します。

そのために、テーピングやコンプレッションシャツなどで皮膚が引っ張られる感じなどの、ちょっとした感覚の変化が内受容として認識されることがあり、スポーツ・トレーニングのパフォーマンスや痛みが変化することがあります。

天気やちょっとしたことで感じる「身体の違和感」の正体は、「内受容」によるものが大きいと言われています。

3 侵害可塑性

侵害可塑性の痛みは、実際に組織にダメージの有無は関係なく発生する痛みのことで、末梢の侵害受容器、または体性感覚システムにより、痛みとして認識されます。

組織の炎症などの侵害受容器への活性がなくても、神経の過敏化で侵害受容システムに問題が起き、痛みとしての認識される可能性もあります。

最近注目されているメカニズムとして、中枢神経感作と呼ばれるものもあります。

中枢神経感作の定義

末梢での組織損傷や炎症の程度が激しく、また長期間続くとそれらが伝達される中枢に機能的な変化が生じ、正常な伝達が中枢で誤って解釈され「痛み」として感じられるようになる。

中枢神経感作と侵害可塑性の痛みとは異なるとされていますが、メカニズム的には同じです。

Joint By Joint Theoryについて

Joint By Joint Theoryは、アメリカの理学療法士のグレイクック先生が提唱している考えで、簡単にいうと人間の関節には、それぞれ主となる役割があるという考え方です。

関節の機能には、二つの役割があります。

  1. モビリティ関節
  2. スタビリティ関節

1 モビリティとは?

モビリティとは、モバイル・アビリティと考えることができます。

「可動させる能力」という意味です。

モビリティは、フレキシビリティ(柔軟性、可動域)とは違います。

フレキシビリティと固有受容器(位置、動き、力の感覚受容器)が働くことで、モビリティが正常に獲得できます。

モビリティ関節とは、「関節を可動させる能力」のある関節ということです。

2 スタビリティとは?

スタビリティとは、スタビライズ・アビリティのことです。

スタビリティ「安定させる能力」と言えます。

スタビリティは、「固定」とは違います。

難しいのが、スタビリティとは、筋力の強さとも異なります。

スタビリティとは、動きの中で、適切なタイミング(適切なブレーキ)で関節を安定させられる能力のことです。

スタビリティ関節とは、「関節を安定させられる能力」の高い関節のことです。

最後に

痛みのメカニズムは非常に複雑です。

  • 腰痛は〇〇をやれば大丈夫!
  • 痛みの原因は〇〇です!

というのも決して間違いではありませんが、必ずしも正解でもありません。

多角的に検証することが重要です。

 

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川崎浩司

「ながさき整骨院」代表  川崎浩司

厚生労働大臣免許 柔道整復師

2012年開業 目立つ看板を出さずひっそりと口コミ中心のスタイルで運営中。

人見知りで人前で喋ったり、目立つことが苦手なのに、うっかり(株)医療情報研究所から2018年に全国の徒手療法家向けのDVDを出版

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