「内転筋が弱い」
かつては、こう言われていました。
O脚改善のトレーニングのアドバイス「内転筋を鍛えましょう」
が王道だった時代があったのです。
「太ももの外側の筋肉が緊張し、その張力に引っ張られて膝が開いていくからO脚になります」
外側の筋肉に負けないように、内側の筋肉「内転筋」を鍛えましょう。
昭和の頃は、この理論が主流でした。
ところが、医学が発達し、平面の2Dで考えられるような単純な問題ではないことがわかってきました。
立体の3Dで考えると、ねじれなど軸の問題も考慮に入れなければいけません。
「O脚が治るように左右の膝をくっつけるように力を入れて立つ」
これも同じで、昭和の頃は王道の考え方でした。
3Dで考えると、直線的に左右の膝をくっつけようとすると余計に膝がねじれ、その結果膝のスキマが開くことが非常に多いのです。
近年では、O脚のメカニズムはどのように考えられているのでしょうか?
O脚のメカニズムについて
O脚で悩んでいる方の多くが
という現象が起きています。
この現象には、スクリュー・ホーム・ムーブメント(screw home movement)という身体運動が大きく関わっています。
screw home movementを簡単に説明します。
膝関節を伸展していくと、最終伸展時 にスクリュー・ホーム・ムーブメント(screw home movement)と呼ばれる 下腿(脛骨・腓骨)
のごくわずかな外旋運動が起きます。
スクリュー・ホーム・ムーブメント(screw home movement)によって、膝関節の安定性が増加させることができます。
SHMは、膝関節を安定させて、完全に伸ばす際の、下腿(脛骨・腓骨)のごくわずかな回旋運動なのです。
立位や荷重位では下腿は足部を介し て地面に固定されているので、自由に下腿(脛骨・腓骨)が外旋することはできません。
closed kinetic chain の状態です。
しかし SHMのモーションを使わないと膝は伸ばせません。
どうなっているかと言いますと、下腿が動かないで、大腿骨がクルッと内旋します。
通常の場合は、下腿が動かない代わりに、大腿が内旋して、リバースのような動きをしているということです。
しかし、多くのO脚の方は、そのようには動きません。
つまり、うまく大腿骨が内旋できなくなっています。
そうすると、膝を伸ばすためには下腿が外旋す るしかないので、地面に足部が固定されているにもかかわらず、下腿を強引に外旋させることになります。
強引に下腿が外旋してしまうと、カップリングモーションで下腿は外側に倒れる動きを行います。
このように、膝や下腿がねじれて、O脚のようになってしまうのです。
さらに、下腿を外旋させるためには、足部の外側のアーチが邪魔になります。
ですからO脚の方は、足部の外側のアーチをつぶすと自由に動けるようになります。
外側のアーチがつぶれると、内側のアーチも外側のアーチに乗っているの で、内側アーチもつぶれます。
O脚の方は、人によっては、外反母趾は回内足も併発している場合があります。
O脚を改善するためには、まずは膝が伸びるようにする必要がありますが、膝を完全に伸ばすため には SHMを誘導する必要があります。
膝を他動的に伸ばしてながら、下腿(脛骨・腓骨)の外旋を誘導すると膝が伸びてくるということは非常に多いです。
ではなぜ SHM が、逆(内旋) になってしまっているのか?
この現象を改善することがO脚を改善するカギとなります。
O脚の方は、脛骨が前方に突出している?
O脚のメカニズムについて解説しました。
ここまで読むと、疑問が出てくると思います。
なぜO脚の方は、 SHM がリバースになったり、働かなくなるのでしょうか?
これには、前十字靱帯(ACL)と後十字靱帯(PCL)が大きく関わってきます。
もちろん LCL、MCLも関係してきますが、特に影響が大きいのがACLとPCLです。
もともと靱帯のゆるい方の SHM を測定してみると、20代でも SHM が発生しません、
さらに測定していくと、そういう方たちはみな関節弛緩性テストで陽性だったという新潟大学でのx研究結果があります。
もともと大腿骨の内側顆と外側顆の曲率半径は、内側顆のほうが大きいため、膝が完全伸展するためには、脛骨が外旋しなくて はなりません。
つまりSHMが起きないと膝が伸びないわけですが、SHMはACLをはじめとする膝の靱帯の緊張で誘導されます。
膝が伸びて行くときに脛骨がどのくら い前方に移動するかを、内旋群と外旋群で比較すると、内旋してしまう人たちは脛骨が大きく前方に移動してしまうという研究結果があります。
つまり、O脚の方達の多くが膝の靱帯がうまく効いてい ないということになります。
特に、ACLとLCLの弛緩性が認められています。
年配の方で、いわゆるO脚の方が多いのも、 ちょうど靱帯の緊張が低下してくる時期と一致します。
「若くて外旋しない人たちはどうして?」
というと。「 general joint laxity 」が陽性だったということに尽きます。
general joint laxity(Carter、Wilkinson、以下GJL)とは、
「靭帯損傷などの外傷が存在せずに,生来的に靭帯や関節包が緩い場合」と定義されます。
特に女性に多く、明らかな臨床症状は認められない場合が大半です。
O脚の方達にテストを行ってみると靱帯が、もともとゆるくて脛骨が前に大きく出てしまう人たちであり、いわば靱帯が効いていないということです。
この研究は、新潟大学のグループが縦断的に20 年くらいかけてリサーチしています。
若い時期の健診のときには膝OA になっていない人たちで、どういう人が 10 年後、20 年後に膝 OAになるかを調べているのですね。
肥満であるとか、もと もとのアライメントとか、いろいろな要素で調べていますが、リスクとしてもっとも大きかったのはgeneral joint laxityでした。
SHM がリバースになってしまう原因と脛骨が前方に 大きく移動することは相関が高いのですが、脛骨が前方に出てしまうという事実が大きな問題になります。
また、ACL損傷を手術 しないで放置した場合も、最終的にはほとんどの人が膝の変形につながります。
つまり、SHMに異常が起 きるということは、膝の伸展制限が起きて来ること
- 靱帯に過剰な負担がかかって いる
- そもそも靱帯がゆるい
ということが、脛骨が前に出てしまって、SHM が逆回旋になり、O脚になり、足部のアーチを潰し、足に負担をかけてしまうのです。
O脚の改善は膝関節の安定化が改善のカギ
弛緩してしまっている靭帯は、医学的には元に戻すことは困難です。
最近の研究では、股関節や足部などを効かせることで、膝関節をうまく制御していく方向に持っていくことが膝関節の安定化をもたらすと言われています。
大腿四頭筋を鍛えて、膝を固定し、安定化することは一時期推奨されていました。
現在では、ちょっと微妙な感じになっています。
安定性というのはコンプレッションフォースによってもたらされています。
コンプレッションで安定させないとい けないものを、大腿四頭筋で膝を固定しようとすると、何が起きるかというとコン プレッションフォースにプラス、シェアフォース(剪断力)が入ってしまいます。
力を入れれば入れるほど、脛骨が前方に突出してしまう可能性が高いのです。
例で言うと、スクワット です。
股関節をまったく効かせ ないで、大腿四頭筋だけでこういうスクワットをしようとすると、理論的には恐らく70°までしか膝の制御ができません。
膝を70°を超えて屈曲 しようとするとシェアフォースは大きくな りますから、これ以上曲げようとするとお そらく崩れてしまうと思われます。
股関節や足首をうまく効かせていくことが 大事になります。
また、股関節が使えないスクワットは、シェ アフォースのほかに、膝蓋骨を大腿骨に押しつける力も増やします。
全部の角度の膝のモーメントを伸展筋力を大腿四頭筋だけで賄おうとすると、膝蓋骨と大腿骨の関節面にストレスがかかり、脛骨粗面周辺に損傷が生じる可能性が高くなります。
ですから 膝の固定を大腿四頭筋だけでやるのではなく、股関節のモーメントを使い、股関節の伸展筋力で上から大腿骨で脛骨をグッと押しこみ、股関節の伸展筋力で膝を固定するのが理想形です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
かなり専門的になってしまい、わかりづらい面も多々あったと思います。
かなり複雑なメカニズムでO脚が発生していることがお分かりいただけたのではないでしょうか?
少なくとも開いている膝をそのまま器具で閉じて固定するようなことをしていても、自己満足だけで改善することは難しいということがお分かり頂ければ幸いです。