何らかの仕事や運動などをしている人で
「腰痛になったことがない」
と方の方が少ないのではないでしょうか?
そこで、腰が痛くなり色々と調べる方が多いのではないでしょうか?
- 姿勢やフォームに問題がある?
- 無理をしてしまった?
- 腹筋と背筋のバランスが悪い?
- 腹筋が弱い?
- 背筋が弱い?
- 身体が硬いから?
- インナーマッスルが問題?
- 脳や精神的な問題?
などと、たくさん色々な情報が出てきて、困ってしまった方も多いのではないでしょうか?
「どういうメカニズムで腰痛が起こっているのか?」
とお困りではないでしょうか?
「解剖学的な腰痛のメカニズム」を知ることで
- 腰痛を我慢する
- 放っておけば、いつかは治ると思っている
といった考えが、危険であることがわかると思います。
痛みというのは、実は非常に複雑なメカニズムで発生しています。
腰痛に関しても、一般的に信じられている話の大半が都市伝説レベルのことが多いです・・・
腰痛や首の痛みなどの運動器の痛みの分類は以下に分けられます。
- 侵害受容性(炎症性を含む)
- 神経系
- 侵害可塑性
まずは、このあたりから解説します。
痛みについて
腰痛や首の痛みなどの運動器の痛みの分類は以下に分けられます。
- 侵害受容性(炎症性を含む)
- 神経系
- 侵害可塑性
1 侵害受容性
侵害受容性の痛みの定義は、末梢の組織の侵害受容器から起こる有害な侵襲のことで、組織のダメージや炎症により、末梢の侵害受容器から伝達されます。
具体的には、スポーツ・トレーニングなどの過活動、怪我などの炎症性の痛みなどに関しては、侵害受容性の痛みのカテゴリーになります。
侵害受容性の痛みは、侵害受容器からの伝達により痛みを感じるため、スポーツの試合中などで、テンションが上がっている場合など身体の状態によっては痛みとして認識されない場合もあります。
痛みは中枢神経系で統合されて認識されるため、ストレスや不安、緊張などの感情によっても侵害受容機に影響を与える可能性もあります。
スポーツやトレーニングなどにより、慢性的に激しい運動や活動が体の部位にかかると、負担が大きい部位が炎症を起こす事もあります。
また炎症が起きていなくても、侵害受容器の伝達を変化させ痛みを生じることもあります。
炎症が起きていなくても痛みが出る場合があることから、スポーツ・トレーニングなどの過活動による痛みと認識される場合もあります。
また生活習慣により、組織の炎症からの回復が遅れると痛みが長引く場合があることも、侵害受容性の痛みの特徴です。
2 神経性
この2つが挙げられます。
- 神経性の痛みとは、痛みが特定の部分の神経の範囲に関与する
- 外傷や疾病などによる体性感覚神経による
神経性の痛みは、〇〇神経痛と言われるものですね。
有名なものですと、顔面神経痛、三叉神経痛、肋間神経痛、坐骨神経痛などでしょうか。
体性感覚神経について解説します。
内受容(Interoception)」というものがあります。
「内受容」と言われても、あまり効き馴染みが無いのではないでしょうか?
内受容の神経レセプターは皮膚組織の下にあります。
内受容の働きとして
- 筋肉
- 皮膚
- 関節
- 内臓
の生理学的な感覚
つまり
- 温かい
- 冷たい
- 痛い
- くすぐったい
- 痒い
- 触られた感覚
- 空腹
などの内臓の感覚を感知します。
これらの刺激は、脳にある大脳皮質の島皮質に送られます。
体の刺激を感知するルートは2種類あります。
- 脳の一次体性感覚野へ部分へ伝達されるルート
- 内受容から島皮質に送られるルート
ちなみに固有感覚受容器も、筋肉や関節に存在し、関節の角度を感じたり、運動の実行、筋肉への伝わり方、姿勢や運動の制御に関係しています。
実は、内受容は感覚神経だけではなくホメオスタシスにも重要な役割を担っています。
日常生活の動作や、スポーツ・トレーニングにおいての統合性も担っています。
そんな内受容からの伝達を受け取るのは自由神経終末というレセプターで、筋膜など、身体の様々な場所に存在しています。
実は筋肉などの筋骨格系には感覚神経が少ししかなく、動作の伝達、感知を担うのは、自由神経終末がメインです。
自由神経終末がは非常に多く存在し、体を動かすキーマンになります。
自由神経終末は、温度や化学物質などの変化、その他さまざまな刺激を感知します。
そのために、テーピングやコンプレッションシャツなどで皮膚が引っ張られる感じなどの、ちょっとした感覚の変化が内受容として認識されることがあり、スポーツ・トレーニングのパフォーマンスや痛みが変化することがあります。
天気やちょっとしたことで感じる「身体の違和感」の正体は、「内受容」によるものが大きいと言われています。
3 侵害可塑性
侵害可塑性の痛みは、実際に組織にダメージの有無は関係なく発生する痛みのことで、末梢の侵害受容器、または体性感覚システムにより、痛みとして認識されます。
組織の炎症などの侵害受容器への活性がなくても、神経の過敏化で侵害受容システムに問題が起き、痛みとしての認識される可能性もあります。
最近注目されているメカニズムとして、中枢神経感作と呼ばれるものもあります。
中枢神経感作の定義
末梢での組織損傷や炎症の程度が激しく、また長期間続くとそれらが伝達される中枢に機能的な変化が生じ、正常な伝達が中枢で誤って解釈され「痛み」として感じられるようになる。
中枢神経感作と侵害可塑性の痛みとは異なるとされていますが、メカニズム的には同じです。
腰痛について
- 侵害受容性(炎症性を含む)
- 神経系
- 侵害可塑性
腰痛の場合、この3つが複雑に組み合わさって発生していることが考えられます。
少なくとも、「〇〇をやれば腰痛治ります!」
という単純な話ではないということだけはご理解いただけると思います。
とは言え、痛みのメカニズムによっては、「〇〇をやれば腰痛治ります!」というメソッドで治ってしまうこともありますから、必ずしも意味がないとも言い切れませんので、一度は試してみてもいいかもしれませんね。
腰痛のメカニズムは特に複雑?
腰痛のメカニズムが複雑な理由は2つあります。
- 「椎間関節」と「多裂筋」は、「痛みに敏感で、痛みを感じやすい構造」になっています。
- 脊髄神経後枝内側枝が一度「防御反応」が発生させると、どんどん痛みに対して敏感になります。
簡単にいうと、腰は痛みに敏感で痛みを感じやすく、一回でも腰が痛くなると、どんどん痛みに対して敏感になってしまうということです。
椎間関節、多裂筋には、他の部位より「侵害受容器」がたくさんあると言われています。
「侵害受容器」=「痛みを感じるレセプター」
です。
椎間関節、多裂筋には「他の部位より多くの痛みを感じるレセプター」があるということです。
「他の部位よりも痛みを感じやすい」ということですね。
つまり「椎間関節」と「多裂筋」は、「痛みに敏感で、痛みを感じやすい構造」になっています。
痛みに対して敏感になった状態こそが、いわゆる「慢性腰痛」です。
つまり、腰は痛みに対して敏感であり、ケアを怠ると、腰痛のループから抜け出せなくなるということですね。
参考論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspc1994/3/1/3_1_29/_pdf/-char/ja
脊髄神経後枝内側枝について
「椎間関節」と「多裂筋」は、同じ脊髄神経後枝内側枝が支配しています。
脊髄神経後枝内側枝は痛みを感じると「防御反応」を発生させます。
「防御反応」とは。多裂筋をガチガチに固めることです。
腰痛の場合、腰回りがガチガチに張って固まっている感じがしますよね?
つまり、脊髄神経後枝内側枝が「動いたら痛いから動かないようにしてしまおう」と、多裂筋をガチガチに固める「防御反応」を起こしているのです。
脊髄神経後枝内側枝が一度「防御反応」が発生させると、どんどん痛みに対して敏感になります。
痛みに対して敏感になった状態こそが、いわゆる「慢性腰痛」です。
「椎間関節」について
椎間関節とは、背骨1つ1つを構成する「椎体」のつなぎ目の関節部分を指します。
多裂筋について
多裂筋の起始停止
- 仙骨背面
- 全腰椎の乳頭突起及び副突起、
- 第7~6頸椎の下関節突起を起始
斜側上方に向かって走行
停止部
- 軸椎以下のすべての椎骨の棘突起
作用は
- 体幹部の伸展・側屈
- わずかの回旋
- 腰椎前弯の保持
椎間関節の安定化
多裂筋は、脊柱のほぼ全て(頚椎の4番〜仙骨)まで付き、特に「腰部」で発達している筋肉です。
特に、下部の腰椎で発達していて、特に下部腰椎の痛みに関与しています。
作用として特に重要なのが
- 腰椎前弯の保持
椎間関節の安定化
の2つがあります。
長背筋のうち、斜胸の深層に位置する筋肉です。
多裂筋は3つに分けられます。
- 頸多裂筋
- 胸多裂筋
- 腰多裂筋
椎間関節と多裂筋の2つの特徴
- 「侵害受容器」の数が多い
- 「脊髄神経後枝内側枝」が支配している
ということです。
これは、先ほども前述した痛みのメカニズムの3つのうち
- 侵害受容性(炎症性を含む)
- 神経系
が該当します。
腰の痛みがある状態が、ある一定期間続くと、侵害可塑性も該当する可能性があります。
腰痛に対してエビデンスがある効果的な手法は?
現時点でのエビデンスでは、「腰痛改善するためには徒手療法よりもエクササイズが重要ということ」となっています。
腰痛のSystematic Review and Meta-analysis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26752509
この論文によると現在のエビデンスは、エクササイズ単独、または教育と組み合わせた各種エクササイズが腰痛の予防に関して有効であることを示唆しています。
教育のみ、コルセット、インソールなど、他の介入は腰痛を予防するとは言えない。
教育、トレーニング、徒手療法は、エビデンスの質が低いため腰痛を防ぐかどうかは不明。
となっています。
そもそも痛みのメカニズムを知らずに、推測だけで「腰痛治します!」と豪語している方が多い印象です。
- exercise 運動、稽古、実習、演習
- training 訓練、養成、鍛錬、練習
長くなるので割愛しますが、トレーニングとエクササイズは意味合いが違います。
また慢性腰痛で感じる硬く感じるような鈍痛では、実際組織的な硬さと関係なく感じます。
「腰痛良くなった=感じなくなった」という感知を変えるのはプラシーボでも変わります。
徒手療法を受けて、「腰痛良くなった=感じなくなった」というのは、プラシーボでも変わります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28851924
そもそも腰痛は症状であり、診断名ではありません、
Joint By Joint Theoryで腰部は安定を担っており、腰椎のスタビリティが低下して腰痛になると言われています。
「腰痛」に至るまでにはこのneural 、mechanical の関係があり、スタビリティ低下で腰痛になるわけではありません。
腰椎は可動性が少なく安定性部位で周囲の可動性の部位で補てんするという説もあります。
ただ腰部の安定性の低下で、腰痛に直結するとは言えません。
腰痛が症状という事は、主観要素が含まれるという事。
特に胸腰筋膜に含まれるレセプターには自由神経終末が多く存在する。
胸腰筋膜は腹斜筋群もその一部に含まれ、腰椎部の少ない回旋可動を補填する可能性はあります。
腰椎部の少ない回旋可動を補填する事で、胸腰筋膜の剪断応力ストレスは向上する場合もあります。
ところがそういったシチュエーションが起きても痛みに直結するかは別の話です。
参考論文
Are Stability and Instability Relevant Concepts for Back Pain?
また、椎間板が痛みの原因になり得るのかどうか?
という議論に関しても終止符が打たれようとしています。
痛がる人の椎間板・軟骨終板には病理的神経新生と支配(pathologic neoinnervation)が発生しています。
参考論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3945018/
まとめ
腰痛と一言で言っても、そのメカニズムは複雑です。
少なくとも「〇〇をやれば腰痛が治ります」
という単純な話ではないということをご理解いただければ幸いです。