- 背中が痛い・・・
- 肩甲骨の内側と背骨の間が痛い・・・
は臨床上遭遇する事が多い症状です。
男性、女性、どちらに多いかと言われると、それほど男女差はないように感じます。
一度痛くなると痛みが再発しやすく困っている方も多いのではないでしょうか?
背中が痛い(肩甲骨の内側と背骨の間) 痛みのメカニズムについて解説します。
背中が痛い(肩甲骨の内側と背骨の間) 痛みのメカニズムについて
最近ですが、腰痛に関してこんなガイドライン的な話があります。
- 腰痛は怖いけど重篤ではない
- 加齢で腰痛にならない
- 持続的な腰痛は組織損傷とは関係ない
- 画像診断は腰痛の原因はあまり分からない
- 痛いときに運動しても悪化させる訳ではない
- 悪い姿勢だから腰痛になるとは限らない
- 体幹が弱いから腰痛になるとは限らない
- 前屈の状態は椎間板の負担は上がるけど、日々の前屈自体が腰痛を引き起こすとは限らない
- 痛みが激しくなっても悪化したわけではない
- 注射や手術、投薬で治るというわけではない。
腰痛に限らず背中の痛みと関連する話でもあります。
背中の痛みというと
- 姿勢が悪いから
- 猫背だから
- 体幹が弱いから
- かたいのが原因
- ストレッチ不足
というのがよく言われますが最近の研究では、それほど関係がないということがわかってきています。
背中の痛みのような運動器の疾患というと、構造面やいわゆるバイオメカニクス面ばかり注目されますが、構造面やバイオメカニクスだけが痛みや違和感のリスクファクターではありません。
- 侵害受容器の問題
- 感覚受容器の問題
- 神経系の問題
- 内受容の問題
という問題も考えられます。
視点を大きく広げて、さまざまな観点から考察していく必要があります。
呼吸の問題で背中が痛くなることも?
意外かもしれませんが、実は首の筋肉や肩の筋肉、背中の筋肉も呼吸には関わっています。
は斜角筋と肋間筋は呼吸にも関わる筋肉です。
基本的に、安静時の吸息は、斜角筋と肋間筋に横隔膜を加えた筋肉で行います。
安静時の吸息は、約70~80%は横隔膜をの働きによるものです。
安静時の吸息の20〜30%は、斜角筋と肋間筋で行っています。
安静時の吸息で横隔膜の活動が低下すると、斜角筋と肋間筋の活動が増えるということです。
胸郭(肋骨)の可動性がなくなると、斜角筋や背筋の活動が増え、痛みが出やすい?
胸郭の可動性がなくなり、本来の動きが失われているケースをよく見ます。
男性より女性に多い印象です。
下着やマスクなどの影響もあるかもしれませんね。
肩こりを訴える方が男性より女性の方が多いのも、胸郭の可動性がない方が多いからという説もあります。
呼気や吸気で、胸郭の動かない場合、胸郭の引き上げが強くなり、斜角筋を始めとした首の筋肉や背筋も使います。
慢性的に斜角筋を始めとした首の筋肉や背筋を使い続けていると、疲れがたまりやすく、不調が出やすくなる可能性があります。
胸郭の可動性は軽視されがちですが、非常に重要です。
一応、バイオメカニクス的な話も・・・
一昔前までは、背中に痛みが出る方は、肩甲骨が機能異常、位置異常を起こしている傾向が痛みの原因と言われてきました。
最近の研究では、こんな単純な話ではないと言われていますが・・・
解剖学的には、肩甲骨は、中立位において下制位、前傾に加え外転に変位しています。
特に利き手側の肩甲骨にこの傾向がみられます。
肩甲骨の動きでいうと、下制、内転、下方内旋の動きが出来なくなってしまっている方がほとんどです。
肩甲骨が本来の位置に収まっていないため、ずっと筋肉が引っ張られていることになります。
特に、肩甲骨が外転しているということは、肩甲骨を内転させる筋肉がずっと引っ張られていることになります。
肩甲骨の外転を少しでも、内転させようと頑張っている結果、疲労して、背中が痛くなるというメカニズムと言われてきました。
痛みが出る筋肉2つ!(肩甲骨を内転時に働く筋肉)
- 僧帽筋
- 大菱形筋・小菱形筋
たびたび背中が痛くなるということは、僧帽筋、大菱形筋・小菱形筋が筋力低下、機能低下を起こしています。
肩甲骨を本来の位置に納めて、正しく機能させるには、僧帽筋、大菱形筋・小菱形筋の筋出力を上げ、機能向上する事が、背中の痛み改善の鍵となります。
肩甲骨の位置異常、機能低下が悪化すると?
肩甲骨が、中立位で下制位、前傾に加え外転に変位しているということは、烏口突起は前下方、さらに外方へ変位しています。
このとき、烏口突起に付着部位を持つ小胸筋と上腕二頭筋短頭は緊張します。
小胸筋と上腕二頭筋の緊張は、肩甲骨の異常変位をさらに促します!
特に痛みがひどい方は、肩甲骨の後傾制限があるため、上肢挙上に伴いインピンジメント症候群が発生します。
ということは、肩甲骨の後傾制限が、上腕近位外側部(肩峰下痛)の原因になるとも言われてきました。
肩甲胸郭関節の機能解剖学
肩甲胸郭関節は、肩甲骨と胸郭(肋骨)によって構成されている生理学的関節です。
肩甲胸郭関節は、肩甲上腕関節や肩鎖関節、胸鎖関節のような滑膜性関節(骨と骨ががっちり噛み合う関節)とは異なります。
胸郭の上では、肩甲骨のポジションは胸郭の形状に影響を受けます。
胸郭の形状よりも、肩甲骨周辺にある軟部組織(筋肉など)から強い影響を受けています。
肩甲骨のポジションに影響を与えている僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋、前鋸筋、小胸筋などは、肩甲骨、鎖骨、また上腕骨から脊椎の各部位に向かって走行しています。
また、僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋、前鋸筋、小胸筋は、肩甲骨に付着部位を持っている筋肉であるので、肩甲骨の状態に直接的に影響を及ぼします。
また、広背筋や大胸筋は、肩甲骨に付着していないため、間接的な影響を与えます。
特に僧帽筋、肩甲挙筋、前鋸筋は胸郭の上での肩甲骨の安定性にとって重要な役割を果たしています。
僧帽筋、肩甲挙筋、前鋸筋の機能低下は、肩甲骨内側縁の不安定性の要因になります(翼状肩甲骨)。
肩甲胸郭関節のバイオメカニクス
肩甲骨の運動は、胸郭面に沿う滑り運動と肩鎖関節を運動軸とする回旋運動に分類できます。
滑り運動と回旋運動は、単独で起こることはなく、滑り運動と回旋運動の組み合わせで起こります。
胸郭面に沿う滑り運動
滑り運動には
- 挙上
- 下制
- 外転(前突
- 内転(後退)
があります。
中立位(休息位)では、肩甲骨の外側縁は内側縁よりも前方にあります(内旋位)。
このとき、肩甲骨は前額断面の前方約30°の断面で、肩甲断面と呼ばれています。
肩甲骨の回旋運動
肩甲骨の回旋運動は、
- 上方回旋
- 下方回旋
- 内旋
- 外旋
- 前傾
- 後傾
です。
上肢の挙上時、肩甲骨は上腕骨の運動に連動します(肩甲上腕リズム)。
このとき、肩甲骨は上腕骨頭の基盤となっています。
そのため、肩甲骨が胸郭上で不安定な場合、上腕骨頭の運動障害が引き起こされ、インピンジメント症候群等の問題が発生します。
肩甲骨外在筋群の作用
僧帽筋 | 肩甲骨の内転(後退)挙上、上方回旋、頭頚部の伸展、下制 |
前鋸筋 | 肩甲骨の外転、上方回旋、下方回旋、肋骨の挙上 |
大菱形筋・小菱形筋 | 肩甲骨の内転、挙上、下方回旋 |
肩甲挙筋 | 肩甲骨の挙上、下方回旋 |
小胸筋 | 肩甲骨の下制、下方回旋、肋骨の挙上 |
大胸筋 | 肩甲骨の外転(前突)、肩関節の内転、屈曲、内旋、水平屈曲、吸気の補助 |
広背筋 | 肩甲骨の内転、下方回旋 肩関節の伸展、内転、内旋 |
肩甲骨内在筋群の作用
三角筋(前部、中部、後部) | 前部: 肩関節の屈曲、内旋 外転、水平屈曲 中部: 肩関節の外転 後部: 肩関節の伸展、外旋、外転、水平伸展 |
大円筋 | 肩関節の伸展、内転、内旋 |
肩甲下筋 | 肩関節の内転、内旋 |
棘上筋 | 肩関節の外転 |
棘下筋 | 肩関節の外旋、外転、内転 |
小円筋 | 肩関節の伸展、内転、外旋 |
烏口腕筋 | 肩関節の内転、屈曲の補助、水平屈曲 |
参考文献
https://www.physio-network.com/corrective-exercise-what-are-we-correcting/
https://bjsm.bmj.com/content/54/12/698
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3945018/