肘の腱鞘炎(テニス肘・ゴルフ肘)の場合、痛みが出ている肘に注目しがちです。
ところが、肘の痛みというのは結果であり、原因ではありません。
肩甲骨が胸郭上で不安定な場合、上腕骨頭の運動障害が引き起こされ、肘の腱鞘炎(テニス肘・ゴルフ肘)になることもあります。
肩甲骨は、胸郭上で安定性が必要ということです。
つまり、腕や手にとって「肩甲骨=受け皿」の役割があるということです。
肘の腱鞘炎(テニス肘・ゴルフ肘)の方は、「肩甲骨=受け皿」の役割が失われているため、「肘=受け皿」の役割になってしまい、負担が大きくなり、炎症が起きて痛みが出るということです。
意外と知られていない、肩甲骨の役割について解説します!
肩甲骨の役割
繰り返しになりますが、肩甲骨に求められている機能は安定性です。
腕や手を安定して使うためには、胸郭上で安定性が必要ということです。
安定性は、固定性とは異なります。
とは言え、肩甲骨は、動き過ぎていても不安定になり、問題が出ます。
闇雲に肩甲胸郭関節の可動性をあげればいいというわけではないということです!
肩甲胸郭関節の機能は、ステビリティです。
肩甲胸郭関節の機能は、モビリティと思われがちですが、ステビリティなのです。
肩甲胸郭関節の機能であるステビリティが失われているために、肘などの負担が大きくなり、負担が大きくなり、炎症が起きて痛みが出るということです。
肘などの負担を減らすためにも、肩甲胸郭関節の機能を理解し、うまく使えるようにすることは非常に重要です。
肩甲胸郭関節の機能解剖学
肩甲胸郭関節は、肩甲骨と胸郭(肋骨)によって構成されている生理学的関節です。
肩甲胸郭関節は、肩甲上腕関節や肩鎖関節、胸鎖関節のような滑膜性関節(骨と骨ががっちり噛み合う関節)とは異なります。
胸郭の上では、肩甲骨のポジションは胸郭の形状に影響を受けます。
胸郭の形状よりも、肩甲骨周辺にある軟部組織(筋肉など)から強い影響を受けています。
肩甲骨のポジションに影響を与えている僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋、前鋸筋、小胸筋などは、肩甲骨、鎖骨、また上腕骨から脊椎の各部位に向かって走行しています。
また、僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋、前鋸筋、小胸筋は、肩甲骨に付着部位を持っている筋肉であるので、肩甲骨の状態に直接的に影響を及ぼします。
また、広背筋や大胸筋は、肩甲骨に付着していないため、間接的な影響を与えます。
特に僧帽筋、肩甲挙筋、前鋸筋は胸郭の上での肩甲骨の安定性にとって重要な役割を果たしています。
僧帽筋、肩甲挙筋、前鋸筋の機能低下は、肩甲骨内側縁の不安定性の要因になります(翼状肩甲骨)。
肩甲胸郭関節のバイオメカニクス
肩甲骨の運動は、胸郭面に沿う滑り運動と肩鎖関節を運動軸とする回旋運動に分類できます。
滑り運動と回旋運動は、単独で起こることはなく、滑り運動と回旋運動の組み合わせで起こります。
胸郭面に沿う滑り運動
滑り運動には
- 挙上
- 下制
- 外転(前突
- 内転(後退)
があります。
中立位(休息位)では、肩甲骨の外側縁は内側縁よりも前方にあります(内旋位)。
このとき、肩甲骨は前額断面の前方約30°の断面で、肩甲断面と呼ばれています。
肩甲骨の回旋運動
肩甲骨の回旋運動は、
- 上方回旋
- 下方回旋
- 内旋
- 外旋
- 前傾
- 後傾
です。
上肢の挙上時、肩甲骨は上腕骨の運動に連動します(肩甲上腕リズム)。
このとき、肩甲骨は上腕骨頭の基盤となっています。
そのため、肩甲骨が胸郭上で不安定な場合、上腕骨頭の運動障害が引き起こされ、インピンジメント症候群等の問題が発生します。
肩甲骨外在筋群の作用
僧帽筋 | 肩甲骨の内転(後退)挙上、上方回旋、頭頚部の伸展、下制 |
前鋸筋 | 肩甲骨の外転、上方回旋、下方回旋、肋骨の挙上 |
大菱形筋・小菱形筋 | 肩甲骨の内転、挙上、下方回旋 |
肩甲挙筋 | 肩甲骨の挙上、下方回旋 |
小胸筋 | 肩甲骨の下制、下方回旋、肋骨の挙上 |
大胸筋 | 肩甲骨の外転(前突)、肩関節の内転、屈曲、内旋、水平屈曲、吸気の補助 |
広背筋 | 肩甲骨の内転、下方回旋 肩関節の伸展、内転、内旋 |
肩甲骨内在筋群の作用
三角筋(前部、中部、後部) | 前部: 肩関節の屈曲、内旋 外転、水平屈曲 中部: 肩関節の外転 後部: 肩関節の伸展、外旋、外転、水平伸展 |
大円筋 | 肩関節の伸展、内転、内旋 |
肩甲下筋 | 肩関節の内転、内旋 |
棘上筋 | 肩関節の外転 |
棘下筋 | 肩関節の外旋、外転、内転 |
小円筋 | 肩関節の伸展、内転、外旋 |
烏口腕筋 | 肩関節の内転、屈曲の補助、水平屈曲 |
肩甲骨が上手く機能していないパターン3つ!
- 肩甲骨「内側」の機能不全
- 肩甲骨「下部」の機能不全
- 肩甲骨「上部」の機能不全
に分けることが出来ます。
この中でも特に多いのが、「肩甲骨の内側の機能不全」です。
肩甲骨の内側が体幹部から離れてしまい、肩甲骨がうまく機能できない状態を「肩甲骨の内側の機能不全」といいます。
その結果起こる姿勢が、「猫背」のような不良姿勢です。
「肩甲骨の内側の機能不全」では、筋力トレーニング、投球動作などで肩の故障リスクが増えます。
「肩甲骨の内側の機能不全」に伴い、胸椎の伸展動作もうまく行えなくなっていることも多いです。
「肩甲骨機能不全」が起こる原因として最も多いのが
- 体幹部(姿勢維持)の筋出力の低下
- 前鋸筋・菱形筋・僧帽筋の筋出力の低下
があります。
「肩甲骨の内側の機能」 を上手く働かすためには、「伸展ー収縮」の刺激が大切です!
「肩甲骨を正しい位置に収める力」が重要になります。
肩甲骨機能不全を改善するには?
とにかく、動かすことが重要です。
特に、肩甲骨の機能障害が起きやすい内転、下制、下方回旋の動きを安定するには、懸垂のように引く動きが効果的です。
この動画のように懸垂を行う必要はありません。
ジムなどに行かれている方でしたら、軽重量で肩甲骨の機能を回復するために、しっかりと肩甲骨を動かして行うことが大事です。
また、市販のゴムチューブなどを使って、自宅でも行うことができます。
しつこいですが、肩甲骨の内転、下制の動きを意識して行うことが大事です。
また、肩甲骨の外転、内転動きを安定させるには、腕立て伏せのような動きも効果的です。
こういったエクササイズを行うと、「肘が痛くなりそう・・・」と思われたかもしれません。
肩甲骨が「受け皿」として機能していれば、理論上痛みは出ないはずです。
もし、痛みが出るということでしたら、肩甲骨をしっかり「受け皿」として使えるように、練習してみてください。
肘の腱鞘炎 2種類!
- 上腕骨外側上顆炎
- 上腕骨内側上顆炎
の2つです。
臨床上、多く見るのは、上腕骨外側上顆炎ではないでしょうか。
スポーツ選手を専門に診ているという条件下でしたら、もしかしたら上腕骨内側上顆炎の方が多いかもしれません。
ちなみに、上腕骨外側上顆炎はテニス肘とも言われます。
上腕骨内側上顆炎はゴルフ肘や野球肘と言われます。
最初に、簡単に「上腕骨外側上顆炎」と「上腕骨内側上顆炎」についてご説明します。
「上腕骨外側上顆炎」と「上腕骨内側上顆炎」
上腕骨外側上顆炎
肘の外側を抑えると、痛みが出るのが特徴です。
前腕の伸筋群の使いすぎで、発生します。
前腕の伸筋群とは、手首を反らせる動きに働く筋肉です。
上腕骨内側上顆炎
ゴルフ肘では、肘の内側を押さえると痛みが出ます。
前腕の屈筋群の使いすぎで発生します。
前腕の屈筋群とは、手首を手のひら側へ動かしたときに働く筋肉です。
一応、参考までに下記のリンクを貼っておきます。
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/LHE/02_ch2_LHE_GB.pdf
まとめ
肘の腱鞘炎の方は、肩甲骨に機能障害が起きている方が多いです。
肩甲骨を「受け皿」として安定して使えるように、「伸展ー収縮」の刺激を入れて、「肩甲骨を正しい位置に収める力」をつけましょう!
肩甲骨のステビリティを高めていくことが、肘の痛みの再発防止にもなります!
参考論文