筋トレやスポーツなどの、なんらかの運動をする人であれば日常茶飯事とも言える筋肉痛。
筋肉痛が現れて喜ぶ方もいれば、困る方もいると思います。
また、筋肉痛の程度によっては日常生活や仕事に影響が出てしまうくらいひどい筋肉痛に見舞われて、困った方もいると思います。
筋肉痛といえば運動した翌日に出ることが多いのですが、2〜3日後に起こることもあります。
「筋肉痛が数日後に出るのは歳のせいだ・・・」
と言われていますが、数日後に筋肉痛が起きるのは、実は謎もまだ多い現象なのです。
数日後に現れる筋肉痛(DOMS)について解説します。
数日後に現れる筋肉痛(DOMS)について
DOMSとは「delayed onset muscle soreness」です。
訳すと、「遅発性筋肉痛」です。
その名の通り、時間差で筋肉痛が発生するということですね。
「年をとると筋肉痛が2〜3日後に出る!」
なんていうのは、20代後半くらいの年代から、発言する方が増えるような気がします
もちろん年齢ともに、組織の回復が遅くなるのは事実ですが、
- トレーニングの強度
- 水分
- 栄養
- 睡眠
実際には、筋肉痛は上記の影響を強く受けます。
「年をとると筋肉痛が2〜3日後に出る!」とは一概には言えないのです。
筋肉痛は2つに分けて考える必要がある
- 運動後の筋肉痛は、高強度の運動や高負荷の運動による組織のダメージ
- 遅発性筋肉痛(DOMS)による組織のダメージ
というように、筋肉痛は2つに分類されます。
1 高強度の運動や高負荷の運動による組織のダメージ
運動による老廃物、代謝物に筋肉の細胞が運動後に反応して、ダメージを回復させていく過程で発生します。
筋肉痛というイメージよりも、筋肉の直接的なダメージで痛みが出ています。
2 遅発性筋肉痛(DOMS)による組織のダメージ
遅発性筋肉痛では、「高強度の運動や高負荷の運動による組織」と比べてダメージ反応がゆっくりで頑固です。
遅発性筋肉痛(DOMS)は、痛みが長期間残り嫌な痛みが残ります。
遅発性筋肉痛(DOMS)は、なぜ遅くてゆっくりなのでしょうか。
筋肉痛のメカニズムについて
筋肉痛の犯人のように言われていたのが「乳酸」です。
運動の代謝物として発生する乳酸が蓄積されて筋肉痛が起こるという説です。
「乳酸が原因で筋肉痛になるのか?」
ということについては否定的な見解が多いです。
以前にこんな記事を書きましたので、ご参考までに。
最近の研究では「TRPV1説」という説が有力になってきています。
乳酸について
乳酸とは。簡単に言えば糖が分解された時に発生する物質です。
「体内に乳酸が多いと、筋肉の出力が高まる」と最近では言われています。
「乳酸が疲労物質ではなく、スポーツやトレーニングなどのパフォーマンス向上している!」という研究がたくさん発表されました。
例えば、乳酸菌という名前はは聞いたことがありますよね?
ヨーグルトなどに含まれているアレです。 乳酸菌は、糖を分解して乳酸を作り出す菌のことです。
人間の身体でも常に糖の分解というのが行われています。
- 運動時(速筋「白筋」が使われる際)
- 食事(糖を摂取した際)
速筋(白筋)は、エネルギーを作り出すためのミトコンドリアやエネルギーを輸送する毛細血管が少ないという特徴があります。
そのため、糖を分解することで生まれるエネルギーがメインとなります。
余談ですが、遅筋(赤筋)は毛細血管が多いために赤く見えるということですね。
遅筋(赤筋)は、ミトコンドリアも多いため、酸素を使って脂質を分解してエネルギーを作り出す能力が高いという特徴があります。
糖が分解されて使われる過程を解糖系と言います。
解糖系では、糖はピルビン酸という変換されて取り込まれます。
ところが、ピルビン酸になる量は一定と言われています。
ピルビン酸になる一定以上の分解が行われた際には、乳酸という形で保存されます。
20年くらい前は「酸素が不足すると乳酸が作られる」と言われてきました。
最近の研究では、糖の分解が増えることで、ピルビン酸が過剰に作られて乳酸が作られると言われています。
最近の研究では、まず前提として運動時に酸素が不足という状態が起きないと言われています。
一定量しか作られないピルビン酸から乳酸が作られるのですが、体内では酸素を使ってエネルギー源として利用されます。
乳酸は、疲労物質や老廃物だと言われていましたが、運動後に疲労した状態を測定すると乳酸が大量に存在したという結果があったのです。
運動後の乳酸の量ですが、安静にしていれば大体1時間程度で使われて通常の量に戻ります。
何かをやって血流が良くなればもっと早く乳酸の量が少なくなります。
参考論文
https://science.sciencemag.org/content/305/5687/1112
https://biz.arkray.co.jp/lact/hatta/
https://www.gelifesciences.co.jp/newsletter/biodirect_mail/chem_story/132.html
TRPV1説
「TRPV1」と聞いても、おそらく効き馴染みがないと思います。
TRPV1とは
- 唐辛子に含まれるカプサイシン
- 酸
- 熱
という3つの刺激に関わる受容体で、痛みの感覚の入り口を担う分子です。
「TRPV1」をもっと簡単にいうと「痛み」という現象に関係する分子です。
最近、遅発性筋肉痛(DOMS)とTRPV1とph値(酸性、アルカリ性を測る値)の関係が注目されています。
例えば、怪我の後や激しい運動後には、身体は炎症状態となります。
身体が炎症を起こすと、体内で一定に保たれているph値が下がります。
ph値が下がった環境では、TRPV1が活性されて痛みに対して過敏になることが解明されてきました。
また、ph値が低下することで、組織の活性が変化して筋の収縮能力も低下し、筋肉がしっかり働かない感覚も発生します。
つまり
筋トレ・運動でph値が下がる
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TRPV1が活性化される
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痛みに対して敏感になる
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筋肉痛を感じる
ということです。
この反応がゆっくり現れますので、時間差で遅発性筋肉痛(DOMS)として感じられているのではないかと言われています。
筋トレ・運動でpH値の低下することで、fasciaの性質が変化します。
fascia内の水分の循環が悪くなると言われています。
運動後には、fascia内の水分の循環が悪くなるため、fasciaを良い環境にする必要があります。
遅発性筋肉痛(DOMS)の対処法は??
遅発性筋肉痛(DOMS)の筋肉痛は主観的な痛みの感覚も大きいため「簡単で誰にでも効きます!」と言い切るのは難しいです。
様々な実験の結果、緩和に効果があるものも判明しています。
遅発性筋肉痛(DOMS)として最も重要なのが
- 水分
- 栄養
- 睡眠
です。
筋肉痛の時にはどんな栄養素を取るべきでしょうか?
PFCバランスの取れた食事は行えているという前提で書いていきます。
運動前や運動後のタンパク質やBCAA
運動時、運動後に血中アミノ酸濃度を高めておくことで、筋肉痛を軽減されるという研究結果が出ています。
カフェイン
運動後にカフェインを取るとアデノシン受容体という細胞のエネルギー輸送やシグナル伝達に関わるところが抑えられます。
結果として、筋肉痛が改善されるという報告が多く出ています。
オメガ脂肪酸
フィッシュオイル(魚の脂)です。
これは強い抗酸化作用を持っていて、酸化ストレスを軽減させてくれます。
エクササイズなど
- アスピリンなどの痛み止めの薬。
- 人の手によるマッサージなどの徒手療法(痛みの緩和効果が高いとエビデンスあり)
- フォームローラーを使ったセルフケア(運動後に20分程度)
- 振動をかける(パワープレート・振動するストレッチローラーなど)
- アイシング(神経系の伝達には何かしらの変化が出ます) *かなり個人差あり
などが、最近では有効な手法と言われています。
ですが、未だに遅発性筋肉痛(DOMS)に関して明確な答えは出ていません。
また新しく論文・研究結果が出てきましたら、ご紹介したいと思います。
(参考文献)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17138635
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11821531
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16284637
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20601741
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK5260/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16573355