スポーツをする上で、痛みとは切っては切れない関係です。
「なんだか痛いんだけど、練習しちゃっていいのかな?」
と判断に困る事もありますよね。
アスリート(トレーニング・スポーツ障害)の痛みというのは、実は非常に複雑で、一般的に信じられている話の大半が都市伝説レベルだったりします・・・
アスリート(トレーニング・スポーツ障害)と痛みの関係について解説します。
アスリート(トレーニング・スポーツ障害)と痛みの分類について
アスリート(トレーニング・スポーツ障害)の痛みの分類は以下に分けられます。
- 侵害受容性(炎症性を含む)
- 神経系
- 侵害可塑性
1 侵害受容性
侵害受容性の痛みの定義は、末梢の組織の侵害受容器から起こる有害な侵襲のことで、組織のダメージや炎症により、末梢の侵害受容器から伝達されます。
具体的には、スポーツ・トレーニングなどの過活動、怪我などの炎症性の痛みなどに関しては、侵害受容性の痛みのカテゴリーになります。
侵害受容性の痛みは、侵害受容器からの伝達により痛みを感じるため、スポーツの試合中などで、テンションが上がっている場合など身体の状態によっては痛みとして認識されない場合もあります。
痛みは中枢神経系で統合されて認識されるため、ストレスや不安、緊張などの感情によっても侵害受容機に影響を与える可能性もあります。
スポーツやトレーニングなどにより、慢性的に激しい運動や活動が体の部位にかかると、負担が大きい部位が炎症を起こす事もあります。
また炎症が起きていなくても、侵害受容器の伝達を変化させ痛みを生じることもあります。
炎症が起きていなくても痛みが出る場合があることから、スポーツ・トレーニングなどの過活動による痛みと認識される場合もあります。
また生活習慣により、組織の炎症からの回復が遅れると痛みが長引く場合があることも、侵害受容性の痛みの特徴です。
2 神経性
この2つが挙げられます。
- 神経性の痛みとは、痛みが特定の部分の神経の範囲に関与する
- 外傷や疾病などによる体性感覚神経による
神経性の痛みは、〇〇神経痛と言われるものですね。
有名なものですと、顔面神経痛、三叉神経痛、肋間神経痛、坐骨神経痛などでしょうか。
体性感覚神経について解説します。
内受容(Interoception)」というものがあります。
「内受容」と言われても、あまり効き馴染みが無いのではないでしょうか?
内受容の神経レセプターは皮膚組織の下にあります。
内受容の働きとして
- 筋肉
- 皮膚
- 関節
- 内臓
の生理学的な感覚
つまり
- 温かい
- 冷たい
- 痛い
- くすぐったい
- 痒い
- 触られた感覚
- 空腹
などの内臓の感覚を感知します。
これらの刺激は、脳にある大脳皮質の島皮質に送られます。
体の刺激を感知するルートは2種類あります。
- 脳の一次体性感覚野へ部分へ伝達されるルート
- 内受容から島皮質に送られるルート
ちなみに固有感覚受容器も、筋肉や関節に存在し、関節の角度を感じたり、運動の実行、筋肉への伝わり方、姿勢や運動の制御に関係しています。
実は、内受容は感覚神経だけではなくホメオスタシスにも重要な役割を担っています。
日常生活の動作や、スポーツ・トレーニングにおいての統合性も担っています。
そんな内受容からの伝達を受け取るのは自由神経終末というレセプターで、筋膜など、身体の様々な場所に存在しています。
実は筋肉などの筋骨格系には感覚神経が少ししかなく、動作の伝達、感知を担うのは、自由神経終末がメインです。
自由神経終末がは非常に多く存在し、体を動かすキーマンになります。
自由神経終末は、温度や化学物質などの変化、その他さまざまな刺激を感知します。
そのために、テーピングやコンプレッションシャツなどで皮膚が引っ張られる感じなどの、ちょっとした感覚の変化が内受容として認識されることがあり、スポーツ・トレーニングのパフォーマンスや痛みが変化することがあります。
天気やちょっとしたことで感じる「身体の違和感」の正体は、「内受容」によるものが大きいと言われています。
3 侵害可塑性
侵害可塑性の痛みは、実際に組織にダメージの有無は関係なく発生する痛みのことで、末梢の侵害受容器、または体性感覚システムにより、痛みとして認識されます。
組織の炎症などの侵害受容器への活性がなくても、神経の過敏化で侵害受容システムに問題が起き、痛みとしての認識される可能性もあります。
最近注目されているメカニズムとして、中枢神経感作と呼ばれるものもあります。
中枢神経感作の定義
末梢での組織損傷や炎症の程度が激しく、また長期間続くとそれらが伝達される中枢に機能的な変化が生じ、正常な伝達が中枢で誤って解釈され「痛み」として感じられるようになる。
中枢神経感作と侵害可塑性の痛みとは異なるとされていますが、メカニズム的には同じです。
痛みのメカニズムは複雑
以上のようにスポーツ・トレーニングによる痛みは複雑です。
痛みは、明確な怪我によるものもあれば、全く怪我と関係なく起こる事もあります。
痛みは「神経生理学的、免疫学的、認知行動的、社会環境的など様々な影響により感じる個々の経験」と定義されていますが、痛みが慢性化すると心理的な原因からも痛みを感じ、様々な機能障害を引き起こす可能性があります。
最近では、慢性的な腰痛の原因は怒りや不安などの心理的な要因が大きいと言われていましたが、心理的要因が全てとは言い切れません。
前述ですが、痛みは3つに分類することができます。
- 侵害受容性(炎症性を含む)
- 神経系
- 侵害可塑性
痛みや怪我の予防を頑張っておこなっても、怪我をするときはするし、痛みが出る時は出てしまいます。
またスポーツやトレーニングという過剰な身体活動を行うという事は、局所の組織のストレスがどうしても大きくなります。
通常であれば、怪我が起きたり、運動後などは適切な炎症からの回復により痛みが消失しますが、組織の修復、回復過程で体性感覚などの変化が起こると痛みの認識が変化し痛みが慢性化することもあります。
痛み・怪我をしたら適切な処置をすること!
が重要になります。
「なぜ痛くなるんだろう?・・」
と痛みを悪者にし過ぎると、ストレスになり侵害可塑性の痛みで慢性化を引き起こす可能性もあります。
とにかくスポーツ・トレーニングを楽しむことで、痛みから解放されることもあります。
理想の投球フォームなら怪我しないという都市伝説
スポーツ障害において、フォーム修正をしたら痛みが出なくなったという都市伝説があります。
- ランニングフォームを改善したら
- 投球フォームを改善したら痛みが出なくなった
- 姿勢を改善したら痛みが出なくなった
というようなものですね。
本当に浸透していますね・・・
- 理想の投球フォームとは?
- 理想のランニングフォームは?
- 理想の姿勢とは?
となると、いかがでしょうか?
- 理想の投球フォームとは=速い球が投げられるフォームのこと?
- 理想の投球フォームとは=身体に負担が掛からないフォーム?
- 理想のランニングフォームとは=早く走れるフォームのこと?
- 理想のランニングフォームとは=身体に負担が掛からないフォーム?
- 理想の姿勢=仕事の作業効率が上がる姿勢のこと?
- 理想の姿勢=体に負担が掛からない姿勢?
どれでもない???
どれでしょうか?
結論から言うと、どんなフォームでも投げ過ぎれば怪我します。
どんなフォームでも走り過ぎれば怪我します。
どんな姿勢でも長時間続けば痛みが出ます。
フォーム云々関は係なく、組織には過剰な反復ストレスによる負担がのしかかります。
過剰な反復ストレスからの組織の回復には
- 栄養
- 睡眠
- 生活習慣
など改善可能な要素もあれば、遺伝子要因(生まれつき頑丈かどうか)が関わってきます。
一概にフォーム・姿勢が綺麗だから痛みが出ない、怪我しないという事との相関性はありません。
アスリート(トレーニング・スポーツ障害)のケアに関しては、逆に過剰な負荷のコントロールが重要になります。
反復性ストレスというのは、絶対にスポーツ・トレーニングをするうえで避けられません。
負担が大きい組織に対して、どうやってダメージを軽減させられるのかも考えなくてはいけません。
バイオメカニクス変えるのも重要ですし、ストレス部位に対して組織の回復を促すと言うことも重要になります。
- 水分摂取
- 栄養摂取
- 睡眠(できれば8時間以上)
などですね。
アスリート(トレーニング・スポーツ障害)に一番多いのが睡眠不足です。
ほぼ全員のアスリート(トレーニング・スポーツ障害)が本業を持っています。
その中で練習時間を増やすと睡眠時間を削る傾向があります。
日中は仕事して、夜帰宅してトレーニング・練習。
帰って家事して寝ると言う生活ですと、8時間以上の睡眠を確保することが難しくなります。
ほぼ毎日飲酒するアスリートも多い印象です。
トレーニング・練習の効率を上げて出来るだけ短時間で終了できるように、飲酒の頻度を減らすなどの努力をして、できれば8時間以上の睡眠を確保することも重要になります。
参考論文